広島高等裁判所 昭和35年(ネ)205号 判決 1961年12月18日
控訴人 被告 平岡章
訴訟代理人 沢田建男
被控訴人 原告 平岡平熊
訴訟代理人 弘重定一
主文
原判決主文第二項の仮登記仮処分決定を取消した部分はこれを取消し、この点に関する被控訴人の訴を却下する。
本件控訴中その余の部分はこれを棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、
原判決を取消す。
被控訴人の請求を全部棄却する。
被控訴人は控訴人のため山口県知事に対して原判決添付の別紙目録記載の不動産中農地につき譲渡人を被控訴人とし譲受人を控訴人とする売買についての農地法第三条による許可申請手続をせよ。
右許可のあつたときは被控訴人は控訴人に対して前掲目録記載の不動産につき右許可の日付の売買に因る所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求め、
被控訴代理人は
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決並びに原判決中仮登記の抹消登記手続を命じる部分につき仮執行の宣言を求めた当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴人において、仮りに控訴人主張の本件不動産に関する契約が売買の予約であることを認められないとすれば、それは山口県知事の前記許可を停止条件とする売買契約と認めるべきであるから、予備的に右停止条件付売買契約を主張し、これを原因として反訴請求の趣旨の如き判決を求めると述べ、乙第七、八、九号証を提出し、当審における証人平岡寛一郎(第一、二回)、同野村安治の各証言並びに控訴人及び被控訴人(第一回)の各本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人において被控訴人(第二回)の本人尋問の結果を援用し、右乙号各証の成立を認めたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
当裁判所は被控訴人の仮登記仮処分決定の取消を求める訴に関する判断を除き原審と判断を同じくするもので結局控訴人主張の本件不動産に関する売買の予約並びにこれにもとずく被控訴人の義務の存在を認めないものであるが、その理由の詳細は、当審における控訴人本人尋問の結果中控訴人がその主張の契約締結に際し電話で直接被控訴人に対し本件不動産売買についての諒解を得た旨の供述部分は他の証拠殊に原審における控訴人本人尋問の結果に照して到底措信し難く、他に原審の各認定を左右するに足る新たな証拠はない旨附加するほか、原判決理由のとおりであるからこれを引用する。
また、控訴人が予備的に主張する停止条件付売買契約の主張も右と全く同一の理由で排斥を免れないことは明らかである。
してみると、本件不動産について当事者間に売買予約の存在しないことの確認並びに真実に反する売買予約にもとずいてなされた控訴人名義の所有権移転請求権保全の仮登記の抹消を求める被控訴人の本訴各請求はいずれも正当としてこれを認容すべく、これと反対の控訴人の反訴各請求は失当としてこれを棄却すべきことは論をまたない。
そこで、右仮登記の原因となつた仮登記仮処分決定の取消を求める被控訴人の訴の適否について考えるに、およそ裁判がそれのなされた手続ないしこれに対する異議、上訴等一連の不服申立手続において取消されることのあるのはいうまでもないが、該手続と全く別個の手続において取消されることは特別な明文の規定(例えば民事訴訟法第七四七条、第七五九条等)のない限り認め得ないところであり、右の理は当該裁判に対して右の如き不服申立の途が開かれているか否かによつて左右せられるべきものではないから、本件の如き仮登記仮処分決定について通常の不服申立方法が認められていないとしても、他に特別の規定のない以上訴を以てその取消を求めることは許されない。そして、かように解したとしても、実体関係を伴なわない仮登記が存する場合においては、たとえその仮登記が仮登記仮処分決定に因るものであつても、一般理論に従い、利害関係人において仮登記の基本となる権利の不存在を主張して訴によつて直接該仮登記の抹消を求めることを妨げるものではない(現に本訴において被控訴人もかかる仮登記の抹消を求め、当審においてこれを認容すべきものとしたことは前記のとおりである。)従つて、この点に関する被控訴人の訴は不適法としてこれを却下すべきものである。よつて、原判決中以上の判断と異る部分は不当であるから民事訴訟法第三八六条により一部取消すこととし、その余の点については控訴は理由がないから同法第三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九六条第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
なお、被控訴人申立にかかる仮執行の宣言については、登記手続を命じる判決には性質上仮執行の余地はないから、これを付さない。
(裁判長裁判官 河相格治 裁判官 胡田勲 裁判官 宮本聖司)